研究部からのひとこと

2016.10.26 日文研の歴史を書きたい(磯前順一教授)

shinnihongaku いつか日文研の歴史をこの手で書きたい! 私のささやかな夢です。1987年に日文研は設立されました。日本がバブル経済の華やかしき頃でした。その前には、ハーバード大学の教授が『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本を出したりもしました。戦争に負けて自信を失っていた日本が、「日本型経営」とよばれるやりかたで評価され、自信を取り戻したように見えました。日文研もその頃の社会の雰囲気を何ほどか反映していたのでしょう。

 欧米の友人はそんな日文研をナルシシスティックなナショナリストと批判しました。一方、アジアの友人は近代化に成功した日本社会の象徴と褒めてもくれました。外国語を使わなくても、日本語だけで日本研究の国際会議ならば容易に企画できたものです。潤沢な予算、それ自体が大きな魅力であった良き時代でした。

 でもいまやどうでしょう。冷え込んだ日本経済はグローバル経済に呑み込まれ、日本型経営など跡形も無くなりました。時代遅れになった「国際的」という言葉の代わりに、「トランスナショナル」という言葉が盛んに用いられています。今こそ、身をもって国境を越えるときなのです。真の友人を作るためには、自分に苦言を呈する人とも同じテーブルの席につく勇気を持たねばなりません。自分に理解できない外国語で交わされる日本研究の議論に耳を傾ける謙虚さも必要になります。経済的豊かさを失った今だからこそ、日文研ならではの国際交流の真価が問われているのです。

 ナルシシズムの歴史を私たちはどのように克服していくことができるでしょうか。現在、国内外の多くの大学が学問の国際化を試みるがゆえに、国際的な日本研究を実験してきた日文研の歴史は、それが成功あるいは失敗のいずれに評されるにせよ、人々の議論に広く提供されるべき有意義な財産だと思うのです。褒められるだけが歴史を書く目的ではありません。勇気を奮って、この野心的な実験の中へと身を投じようではありませんか!

 

磯前順一教授 紹介ページ
http://research.nichibun.ac.jp/ja/researcher/staff/s007/index.html